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権利関係5回目
債務不履行と解除


1債務不履行とは

(1)意義債務不履行の種類

 債権は,債務者が任意に履行(弁済)することによって満足して終了します。ところが,債務者がその債務を履行しない場合に,債権者としてはどのような手段をとることができるのでしょうか。
 このように債務者がその責に帰すべき事由により本来の履行をしなかった場合,それを債務不履行と言います。責に帰すべき事由のことを帰責事由とか,帰責性と言います。債務不履行の種類としては,履行遅滞・履行不能・不完全履行の3種類があります。

(2)効果債務不履行の効果

 債務者が本来の債務を履行しないとき,債権者は現実的履行の強制ができるし,また双務契約なら解除もできる。しかし,現実的履行の強制を受けたとしても,また契約を解除したとしても,なお債権者は相手方の不履行によって損害を受けていることがある。たとえば,家屋の売買契約を例にとれば,買主は現実的履行の強制により家屋の引き渡しを受けたり,また,契約を解除したりしたとしても,他から家屋を借りて賃料を支払ったという損害は残る。そこで,このような損害を填補して損害の公平な分担を図るために認められるのが,損害賠償請求という制度です。

@現実的履行の強制(強制履行)

 債務者が債務を任意に履行しないとき,債権者は国家権力の助けを借りて履行を強制することができます。これを強制履行,強制執行といいます。現実的履行の強制
 強制執行するためには,債務名義というものが必要になります。債務名義とは,一定の私法上の給付義務の存在を証明し,法律によって執行力を付与された公正の文書をいいます。典型的なものとして,確定判決や強制執行を許すということが記載されている公正証書などがあります。
 この強制執行の方法には,直接強制,代替執行,間接強制の3つがあります。

直接強制直接強制(414条1項)
 直接強制とは,国家の執行機関の力により債務者の意思にかかわりなく直接に債権内容を実現させる強制方法をいいます。たとえば,金銭債権について,裁判所が債務者の不動産を差し押さえて売却して(競売)お金にかえて,債権者に分配して債権の満足に充てるような場合をいいます。
 直接強制が許されるのは,物の引渡を目的とする債務についてだけです。また,直接強制が許される場合には,代替執行や間接強制はできません。

代替執行代替執行(414条2項)
 代替執行とは,債権者が裁判所に請求し,その裁判に基づいて第三者の手により債務者に代わって債権の内容を実現させ,その費用を債務者から強制的に徴収する方法をいいます。
 たとえば,債権者の所有する土地に立つ債務者の建物を収去すべき債務について,裁判所から権限を受けたものにこれを取り除かせて,債務者からその費用を取り立てるような場合をいいます。
 代替執行が可能なときは,間接強制は許されません。

間接強制
 間接強制とは,債務の履行を確保するために,相当と認める一定額の金額の金銭の支払いを命ずることにより,債務者を心理的に圧迫して債権内容を実現させる方法をいいます。
 たとえば,財産管理や,法人の清算手続のように,その人の能力が要求されていて他人が代わってやるわけにはいかない(不代替作為債務)が,いやいややったとしてもそれなりに債権の目的を達せられるという場合に,この方法によることが考えられます。

A損害賠償

 次に債務不履行の効果として,損害賠償があります。債務不履行の場面における,債権者が債務者に対して請求できる基本的な手段といえます。債務不履行に基づく損害賠償請求
 債務者が約束どおりに履行してくれないと,債権者は損害を受けることがあります。そこで,債務不履行によって損害が生じた場合には,債権者は債務者に対して,「損害の賠償」を請求できます。
 この場合,債権者は,損害があったこと,および,損害の額をみずから証拠によって証明する義務を負います。
 しかし,建物が期日に引渡されなかったことによる損害を金額で示し,それを証拠で証明することはとても困難です。そこで,契約当事者があらかじめ損害の額を決めるということが実務ではよく行われています。契約自由の原則から,このような特約も許されています。これを損害賠償額の予定と呼びます。

損害賠償額の予定
  1. 当事者は,債務不履行について損害賠償額の予定をすることができる。この場合,裁判所はその額を増減することはできない。
  2. 損害賠償額の予定は,必ずしも契約と同時にする必要はなく,また,金銭以外のものをもってすることができる。
  3. 損害賠償額の予定は,履行の請求または解除を妨げない。
  4. 違約金は,これを損害賠償額の予定と推定する。

履行遅滞に基づく損害賠償請求
 履行遅滞に基づく損害賠償が認められるには,次の6つの要件を充たさなければなりません。
  1. 債務が履行期に履行可能なこと
  2. 履行期を徒過したこと
  3. 履行の遅延が債務者の帰責事由に基づくこと
  4. 履行しないことが違法であること
  5. 損害の発生
  6. 損害と債務不履行の間の因果関係

履行不能に基づく損害賠償請求
 履行不能に基づく損害賠償が認められるには,次の5つの要件を充たさなければなりません。
  1. 履行不能なこと
  2. 履行不能が債務者の帰責事由に基づくこと
  3. 履行不能が違法であること
  4. 損害の発生
  5. 損害と履行不能の間の因果関係
  • 履行不能は,後発的な不能に限られます。契約締結当時にすでに不能だった場合(原始的不能)には,契約は無効になり,契約締結上の過失の問題となります。

不完全履行に基づく損害賠償請求
不完全履行に基づく損害賠償請求が認められるには,次の5つの要件を充たさなければなりません。
  1. 履行が不完全であること
  2. 不完全な履行が債務者の帰責事由に基づくこと
  3. 不完全な履行が違法であること
  4. 損害の発生
  5. 損害と不完全な履行との間の因果関係
  • 不完全履行の効果は,追完が可能な場合と不可能な場合で異なります。追完が可能な場合は,履行遅滞と同様に扱います。追完が不能な場合は,履行不能と同様に扱います。

《不完全履行と瑕疵担保責任(応用)》
 A社は,B社に対し,実験用マウス30匹を売り渡した。ところが,この中に,有害なウィルスに感染したマウスが混じっていた。その結果,もともと飼育していたマウスにも感染してしまった。B社は,このウィルスに感染した他のマウス200匹を焼却処分した。このような場合,A社にはどのような責任が発生するか。
 この実験用のマウスのような不特定物売買のときに,不完全履行が問題となります。仮に特定物売買であった場合には,目的物に隠れた瑕疵があっても,法律上は引渡の時の現状で引き渡せば履行として完了するので(483条),不完全履行は問題となりません。この場合は,後に勉強する瑕疵担保責任の問題となります(ただ,この点については瑕疵担保責任の法的性質をどう解釈するかによって結論が異なるところでもあります)。
 また,本件におけるウィルスに感染したマウス30匹の引渡しは,「債務の本旨」に従った履行とは呼べないので,B社はウィルスに感染していないマウスをA社に請求できるのは当然です。これは,不完全履行に基づく請求ではなく,単に売買契約から生ずる履行義務によります。

損害賠償の範囲
 次に,債務不履行に基づいて損害が発生した場合,その発生した損害をどこまで賠償しなければならないのかという問題を解決しておきましょう。
 民法は,社会通念上相当と考えられる範囲の損害に賠償額を限定しています。債務不履行と因果関係のある損害を通常損害(416条1項)と特別損害(2項)に分け,前者は無条件に,後者は特別事情の立証があれば損害賠償義務が及ぶとしています。

金銭債権の特則
金銭債権とは,一定額の金銭の支払を目的とする債権のことをいいます。売買代金債権や貸金債権などがその例です。この金銭債権にはいくつかの特則があります。
  1. 金銭債権の場合,金銭の特定ということは考えられません。
  2. また,債務者は金銭債務の給付義務から免れることができません。つまり,履行不能はあり得ないということです。金銭債権については履行遅滞しか考えられないということです。
  3. さらに,債権者は債務者の履行遅滞について,損害を立証しなくても損害賠償請求ができます(419条2項前段)。法定利率(5%)があるからです。
  4. 債務者の方は,その履行遅滞が不可抗力(たとえば大地震が起きて交通が遮断されたので銀行振り込みできなかったなど)に基づくものであったとしても,損害賠償義務を免れることはできません(419条2項後段)。
  5. なお,債権額を外国の通貨で指定した場合(402条3項,外国金銭債権。たとえば,1万ドルの売買債権など)でも,履行地における為替相場により日本の通貨をもって弁済すれば足りる(403条)

B契約の解除

 債務不履行の効果の3つめとして,契約の解除についてここで検討しておきましょう。
 契約の解除とは,契約が締結されたのちに,その一方の当事者の意思表示によって,その契約がはじめから存在しなかったのと同様の状態に戻す効果を生じさせる制度のことをいいます。
 ただ,この解除という効果は,債務不履行だけでなく担保責任の効果でもあります。さらには,当事者の約定によっても定めることができます。

解除の存在理由解除の存在理由
 次の事例で考えてみましょう。
 Bは所有する自動車をBに200万円で売却する契約を結んだ。Aは200万円を銀行で借りるつもりだったが,以前からルーズだったAは,電話代・ガス代・消費者金融からの借入れの返済を何度も怠っていた。それがため,Aは頼りにしていた銀行から借入れをすることができなかった。同じ自動車をCが200万円で買いたがっている。この自動車はあと数ヶ月で,ニューモデルが発表されることもあり,今売らなければ価格は半値以下になる可能性がある。
 解除は,契約の相手方が債務不履行などに陥った場合に,債権者を反対債権から解放し,あるいは自ら履行した引渡債務の目的物の返還を認めることによって,債権者を保護する制度です。したがって,解除は双務契約で問題となります。簡単に言えば,双務契約における拘束から,債権者を解放するための制度だといえます。

解除権発生の要件
  1. 履行遅滞
     債務者の責めに帰すべき事由によって債務の履行が遅れている場合には,債権者は相当の期間を定めてその履行を催告し,その期間内に履行がなければ,契約を解除することができる。
  2. 履行不能
     債務の履行の全部または一部が債務者の責めに帰すべき事由によって不能となったときは,債権者は直ちに契約を解除することができる。

解除の効果
  1. 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者はその相手方を原状に復せしむる(契約前の状態に戻す)義務を負う(原状回復義務)。
  2. 原状回復義務を履行するにあたって,返還すべき金銭にはその受領の時からの利息を付けることが必要である。
  3. (債務不履行に基づいて)解除権を行使しても,損害賠償の請求をすることができる。

解除と第三者解除と第三者
原状回復をするにあたって,契約の各当事者は,第三者の権利を害することはできない。ただし,第三者の権利が保護されるには,目的物が不動産の場合,第三者が登記をしていることが必要である(善意である必要はない)。


2.手付解除

手付解除 契約の解除には,債務不履行などの法律上に定められた要件を充たした場合に発生する法定解除だけではなく,契約当事者の意思によって一方的に契約解除できる形式の約定解除というものもあります。
 たとえば,1,000万円で建物を購入する契約を結んだとしましょう。建物のような不動産の売買では,通常,「手付をうつ」などと表現される行為をします。これは,商人たちが考え出した知恵です。江戸の昔から日本には慣習として存在していました。どういったものかといえば,買主が売買代金のうちの何パーセントかを売主に手付金として契約を結ぶ際に手渡します。通常は,その後に,買主は中間金として代金の半額程度を渡し,最後に建物の引渡と登記移転と同時に残代金を支払い,めでたく契約が終了します。しかし,手付をうった後に,同じ建物を1,500万円で買いたいという人が現れたり,逆にほぼ同じ条件の物件を500万円で販売していることを買主が知るなどして,売主または買主が「この契約…やっぱりなかったことにしたいな〜」と思うこともあるわけです。このような売買契約にたま〜に生ずる当事者の要望を形にしたのが手付けという制度なのです。
 すなわち,売買契約の当事者は,契約の相手方が履行に着手するまでは,買主が手付を放棄して,売主は手付倍返しすることによって,一方的に契約を解除することができるわけです。


 債務不履行と解除については,宅建試験では過去10年で8回程度出題されているとても重要な事項となります。また,実社会でも一度は必ず出くわしたことのある法律問題でしょう。法律家になる以上,この債務不履行についてはしっかりと学んでおかなければ「お話しにならない」という状況を招きますのでご注意あれです。
 まず,債務不履行と契約の解除について,それぞれの法体系上の位置付けは,一応意識しておいた方がよい。宅建主任者資格試験での学習では,六法を広げることなどあまりないでしょうが,知っておいて損はない。
 債務不履行は,民法では債権総論のところに定めがあります。債権総論のところの規定は,債権という権利すべてに共通していえることをまとめているものです。そして,債権が発生する原因が,その後の規定に個別に定められています。つまり,@契約A事務管理B不当利得C不法行為の4つです。これらの原因が債権を生じさせるわけです。
 債務不履行が債権総論にあるということは,一応,契約・事務管理・不当利得・不法行為から発生する債権という権利に共通する内容だということになります。そして,そこには,その法的効果として「損害賠償請求」が記されているにすぎません。
 それに対して,解除はどこに規定されているのでしょうか。契約総論のところに規定されています。つまり,解除という制度は,債権すべてに共通する内容ではないのです。契約が有効に成立していることを前提とした規定なのです。事務管理・不当利得・不法行為については解除は問題となりません。有効な契約があるからこそ解除ができるのです。
 解除という制度は,ある意味独特の制度です。というのは,民法総則の規定である無効とか取消と,「はじめからなかったことになる」という点では共通しているのですが(この点については学説上大きな争いがありますがここでは詳細しません),その後の措置が異なってきます。すなわち,無効や取消の場合は,特に規定がない限り,事後処理は不当利得の規定を使います。つまり善意の場合は現存利益の返還で,悪意の場合は全部の返還と損害賠償です。しかし,契約の解除の場合は,原状回復義務と受領時からの利息の返還,さらに損害賠償となっています。この点をどう考慮するかで学説上大きな争いがあります。
 なぜこのような違いが生ずるのでしょうか。それは,まさに上記の体系的な位置付けがわかれば一目瞭然となるのです。
 民法は,自由な意思表示をその核とする一般法であり私法です。無効や取消という制度は,そもそもこの自由な意思表示を「欠く」か「できない」か「許されない」場面で出てくるものです。解除はこの意思表示になんら問題ない場面での事後処理の問題です。つまり,自由な意思決定があった後の自己責任の範囲内の話しなのです。自分でちゃんと考えて決めた契約を自分の責任で履行できない以上,不当利得より重い責任を負っても仕方ないわけですね。



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