権利関係2回目
意思表示
1 意思表示
民法という法律の特徴は,ひと言でいうと,個人個人の意思(平たく言えば「気持ち」を大切にするところにある。そこで,民法の世界では,個人の意思(気持ち)があるかないかが決定的に大切で,意思があればいろいろと話がはじまり,逆に,意思がない場合には話ははじまらない。
具体的には,意思がある場合には,それだけで契約等ははじまり,意思以外のもの(たとえば,書面の作成等)は,契約等をはじめるにあたって基本的に不要となる。そしてまた,契約等がはじまる場合には,どんな内容にするのかといったことについても,基本的には,当事者の意思を尊重して自由に決められる(契約自由の原則)。
これに対して,意思が全くない場合や,意思が十分でない場合には,契約等は無効になったり,取り消されたりするのである。
2 取消と無効
無効とは,法律効果を当初からまったく生じないものとして取り扱うものと定義されています。
取消とは,いったん法律効果を発生させた後に,これを消滅させる余地を認めるものと定義されています。
いずれも法目的達成のための技術で,無効とするか取消とするかは立法政策(法律をつくる人の判断)により決まることになります。
簡単に言えば,契約が「無効」だということは,その契約は一度も有効になっていない,はじめから契約自体が存在していないのだということです。それに対して「取消」とは,取り消すまでは一応契約は有効に存在しているが,ひとたび取り消されれば,はじめから存在していなかったことになります。ですから,無効も取消も,結果は同じだということになります。
無効の場合は,「いつでも,誰でも,どこでも」それを主張できるのが原則です。つまり,時効にかからず,利害関係があれば契約当事者以外でも,裁判所に訴えることなく単なる通知だけで,無効は主張できるのです。また,無効ははじめからそのような契約が存在しないことから,追認すること(後で「あの契約は無効だったけれど結構いい条件だから有効な契約があったことにしよう」と認めること)もできません(民法119条)。
それに対して,取消の場合は,一定期間それを主張しなければ時効によって主張できなくなり(民法126条),取消の主張ができる者が限られています(民法120条)。また,取消の場合は追認が可能です(民法122条)。
このように取消と無効は,結果は同じなのですが,その内容が異なります。
次に,どのような場合に取り消すことができるのか,または無効となるのかを理解する必要があります。
ここでもう一度,民法の定義を確認しましょう。民法の定義にこの違いの秘密が隠されています。
「民法とは,自由の思想に基づく市民社会のルール」でした。
民法は,あくまでも自由な思想(意思)に基づくことが強調されるべき概念です。つまり,自由な意思のない表示は,原則として無効と考えるのです。たとえば,まったく売る意思がないにもかかわらず,「売る」と言ってしまった場合などです。売る意思がまったくなければ,基本的には無効と考えるのです。
また,幼稚園児(4歳くらいの子ども)が「お兄ちゃんにこの帽子あげる」と贈与の意思表示をした場合でも,子どものこの発言(表示)について,その子ども自身が表示の結果を理解できていない場合(贈与するという意味がわかっていない場合)は,そもそも自由な意思をもっていない(意思無能力といいます)として無効となります。
さらには,殺人を人にお願いをする契約をした場合(殺人請負契約とでも呼ぶのでしょうか)は,自由な意思に基づいていて意思能力もあった場合でも,その意思表示自体が,許されない場合といえるので,絶対的に無効となります(民法90条)。
それに対して,売るという意思はあるが,その意思表示にいたる原因が詐欺や脅迫だった場合などは売る意思はあるので無効とはなりません。この場合は取り消すことができるとなっています。だま騙されて土地を売ったとか,脅されて建物を売ってしまったとかがその例です。
未成年者などが親の同意を得ずに,車を買うといった場合も,一般に未成年者などは,充分な判断能力をまだ有していない可能性が高いので,彼らを保護しようという目的から,取り消すことができるとなっています。この場合も未成年者といえども車を買うという意思はちゃんと有しているので,無効とはなりません。
どのような場合に無効となり,どのような場合に取り消すことができるのかは,早めに常識にしてしまいましょう。この点も暗記事項となります。では,これらの場合について,具体的にみていくことにしましょう。
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無効
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取消
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効力
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当然に効力なし
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いちおう有効
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主張権者
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誰でも主張できる
ただし,錯誤による無効は表意者のみ主張できる
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取り消すことのできる意思表示をした人やその代理人,承継人,同意権者
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時効
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時効による制限はない
いつでも無効を主張できる
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取消権は,追認できる時より5年,行為の時より20年で消滅する
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例
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錯誤による意思表示
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制限能力者の行為
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3 心裡留保
| Aが自己所有の建物をBにあげる気も売る気もないのに,冗談でBに「私の家をあげます」または「私の家を100円で売ります」という意思表示をした場合で,Bがそれに承諾した場合,この贈与契約または売買契約はどうなるのでしょうか。 |
心裡留保とは,意思表示の表意者が表示行為に対応する真意のないことを知りながらする単独の意思表示をいいます。簡単に言えば,わかっていながら嘘をつくことです。冗談のことです。
原則有効である。ただし,相手が真意を知っていたり,知ることができた場合には,無効となります(民法93条)。
4 虚偽表示
| Aは多くの金融機関から借金をしていた。商売がうまくいかなくなったAは,そろそろ借金取りが自分の建物を差押にくるのではと予感した。そこで,なんとかこの思い出の自宅を守とうと画策し,悪友のBに次のことをお願いした。「Bさん,借金取りから自宅を取られるのを阻止するために,この自宅をBに売ったということにしておいて。たんに名義を貸してくれるだけでいいから。迷惑かけません。」Bはこれに承諾して,架空の売買契約を交わした。この場合,AB間の売買契約はどうなるでしょうか。 |
虚偽表示とは,表意者が相手方と通謀して(結託して)行った真意と異なる意思表示をいいます。簡単に言えば,お互いわかっていながら嘘をつくことです。この虚偽表示による意思表示の効果は無効となります。
これも心裡留保と同じく,内心に対応する表示がありません。したがって,法的保護に値しないとします。
| 上の例でBが自分に名義があることをいいことに,Cに土地建物を売ってしまった場合はどうなるだろうか。Cさんは土地建物を有効に取得することができるのでしょうか。CがAB間の通謀虚偽表示の事実を知っていた場合と,知らなかった場合とで結論は異なるのでしょうか。無効という効果を踏まえて理論的に考えてみましょう。 |
AのBに対する意思表示は,94条2項の規定によって,無効となります。さて,無効とはどういったものだったでしょうか。
AのBに対する意思表示ははじめから存在していなかったということになります。AのBに対する意思表示がはじめから存在しなかったということは,契約の成立要件の第一段階の意思表示の一致も当然に存在していないということになります。つまり,売買契約自体が無効(または不成立)ということになります。
したがって,Bは一度たりとも建物の所有者にはなっていません。所有者でないにもかかわらずAの建物をCに売ったということになります。法律上,他人のものを勝手に人に売っても所有権は移転しません。ということは,Cは建物の所有者にはなれないというのが理論上当然の帰結ということになります。
しかし,民法94条2項には,表意者Aは善意の第三者Cに無効だから建物を返しなさいという主張はできないと定められています。
これはどういうことなのでしょうか。
《94条2項の「第三者」》
表意者と相手方との間の契約などは,Aの意思表示が無効となることで,同時に無効となります。しかし,その無効の主張は善意のCに対しては主張できないとされています。
なぜこのような結果になるのかというと,CがBと取引してしまうような状況をつくってしまった責任がAにあるからです。もちろん,CがAB間の取引が虚偽表示により無効だということを知っていた場合には,あえてCを救う必要はありませんが,知らなかった場合は,Aの責任をCに転嫁するのは,正義に反します。だから,虚偽表示無効は善意の第三者に対抗できないのです。
この点,判例が94条2項で保護されるべき「第三者」を定義しています。すなわち,虚偽表示の当事者およびその包括承継人以外の者であって,虚偽表示の外形について新たな独立の法律関係を作るに至った者,です。
94条の第三者の要件としては「善意」としかありません。上の図のように天秤にかけてバランスがとれればいいので,表意者Aの帰責性の度合いによって,善意以外の要件として登記や無過失を要求するとの考えもあってもいいのですが,判例は,登記や無過失を要求していません。文理解釈を徹底しているということです。
5 錯誤
| Aは町で不動産屋を営んでいた。土地の購入を考えているBがお店にやってきた。Aは自社物件のひとつである甲地を勧めようと考えた。しかし,ついうっかり不注意で,乙地を勧めてしまった。Bは乙地を気に入りすぐに契約書にサインした。Aは,契約書にサインした後,契約書の内容が甲地ではなく,乙地の売買契約書であることに気が付いた。この場合,Aはこの契約をなかったことにできるか。 |
これは民法95条の問題です。同条が言っていることは,まず,法律行為(契約と思って下さい)の要素に錯誤があったとき,つまり,動機の錯誤ではなく,重要な部分について勘違いがあったときに(要件),表意者Aの行った意思表示が無効となります(効果)。すなわち,AさんはBさんから土地を取り戻せるということです。しかし,これは原則にすぎません。例外があります。その例外は95条の但し書きにあります。表意者(A)に重大な落ち度があって,勘違いして意思表示を行っていた場合は(要件),表意者Aが自ら無効を主張できない,つまり,土地を取り戻せないということになります(効果)。
錯誤とは,表示に対応する意思が欠缺し,しかも意思の欠缺につき表意者の認識が欠けていることをいいます。この場合,無効ですから,前に説明したとおり,いつでも,どこでも,誰でもそれを主張できるのが原則です。しかし,錯誤無効の場合は,表意者(勘違いした人)が無効を主張したときにはじめて意思表示の効果が失われるとされています。誰でも主張できる無効の原則の例外ということです。これを取消的無効と呼ぶことがあります。
要素の錯誤とは,その契約の重要な部分であり,もしこの錯誤がなければ表意者のみならず一般人もそのような意思表示をしなかったであろうような場合をいいます。
重過失とは,錯誤に陥ったことにつき,通常の一般人に期待される注意を著しく欠いていることをいいます。
6 詐欺・強迫
| Aは家族でつつがなく暮らしていた。ただ,新婚当初に購入した家は,大きくなってきた二人の子供と近々同居を考えている旦那の両親のことを思えば,手狭になってきた。そこに,Bという飛び込みの宅建業者の営業マンが来た。BはA宅の購入を申し出た。しかし,Bは次のことを言った。「Aさん宅の近くには近々大型の火葬場が建設されるみたいですよ。私の知り合いの都議会議員に聴きました。数週間のうちに正式発表されますよ。それが発表されたら,地価は現在の2割程度まで下がりますよ。今だったら私が地価の5割で買い取りますよ。」このような話は嘘だった場合,売ると言ってしまったAはこの契約を取り消すことはできるでしょうか。 |
詐欺とは,人を欺罔して錯誤に陥らせる行為をいいます。簡単に言えば人を騙して契約を結ぶようなことです。
強迫とは,相手方に畏怖を生じさせ,それによって意思表示をさせることをいいます。相手方を怖がらせて契約などを締結させてしまうことを,強迫による意思表示をさせたといいます。
詐欺も強迫もその結果として,その意思表示を取り消すことができます。今までの意思の欠缺とは異なり,一応表示に対応する内心的な効果意思はあり,意思表示の過程に問題がある(瑕疵があるといいます)に過ぎないので,効果も無効という強い効果ではなく,取り消すことができる,になります。
《詐欺強迫による取消と第三者》
詐欺と強迫の場合,取り消すことができるということはわかりました。では,詐欺・強迫を理由に取り消す前に取引関係に入った第三者Cが現れた場合,騙されたAまたは脅されたAと,第三者のCはどのような関係になるのでしょうか。
詐欺・強迫の事例で,Cという第三者が登場したらどうなるのでしょうか。実は,法律問題は,当事者が2人までの場合は,解決するのにそんなに苦労はないのです。難しいのは第三者が登場したときなのです。
詐欺・脅迫の事例で,Bさんが悪い奴であり,Bさんに責任を負わすべきだというのは,小学生でもわかることです。しかし,
実社会においては,本当に悪い奴は,責任を逃れるために捕まる前に逃げているか,奪ったお金を隠してしまっています。つまり,実際上はBさんに責任を負わせる場面は少ないといえましょう。ということは,残ったAさん(騙された人・脅された人)か,Cさん(騙した・脅迫したBさんから土地・建物を購入した人)のどちらかに泣いてもらうしかないわけです。特に,Cさんが,脅迫だとか詐欺だとかについて善意(知らなかった)だったという場合,AさんもCさんも救ってあげたいわけです。しかし,土地・建物は二つに分けることはできませんし,お互い2つに分けてもらっても納得しないでしょう。やはり,どちらかに泣いてもらうしかないのです。
96条3項で保護される「第三者」とは,詐欺による意思表示を前提として新たに独立の法律上の利害関係を作るに至った者をいいます。この第三者が善意であれば保護されるということになります。
今日勉強した中でもっとも重要な点は,権利外観法理という頭の使い方です。@表意者(本人)の帰責性,A虚偽の外観の存在,B第三者(相手方)の要保護性,は理解し常識にしておかなければならないキーワードです。この理屈は法律のあらゆる分野で使うことになるとても大切な理論です。
宅建試験での頻出分野としても,詐欺による取消と,虚偽表示による無効は,とてもよく出題されています。判例からの出題も多いので,判例にまで手を伸ばしてしっかりと結論も覚えておきましょう。 |
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