NPO法人全国生涯学習支援協会の
社会的責務
1.NPO法人全国生涯学習支援協会設立の経緯
私(田中謙次)は,中央大学通信教育部を一九九八年三月に卒業後,二〇〇一年三月まで,中央大学大学院法学研究科刑事法専攻博士前期課程で椎橋隆幸教授および渥美東洋教授の下で学問を志しておりました。もちろん,今もお付き合いはあり,研究も続けております。
大学院修了後,私は産能大学・近畿大学の併修校で,講師を長く勤めておりました。そこで,国家資格教育および公務員資格教育も行っていました。二年程前に,勤めていた併修校が経営不振で倒産したことで,行き場のなくなった学生に対してボランティアで勉強を教えておりました。対象の生徒は,ひきこもり,もと不良(数年前まで少年院に入院していた生徒も数人います)などがほとんどです。これは私の教務経験および私自身の体験から言えることなのですが,一般に問題を抱えていると言われる若者は,深い学問に触れ,実社会の成り立ちを知ることで,その多くが更生の道を辿ります。当協会に所属する学生は,現在,司法試験受験および法科大学院入学に向けて勉強を始めています。その一人は数年前まで数百人を束ねる暴走族のリーダーでした。学問と教育の底知れぬパワーを感じております。
現在は,以前からお付き合いのあった産能大学と併修校関係にあります。ただ,私自身が中央大学通信教育部の卒業生であり,渥美東洋教授,椎橋隆幸教授の下,深い学問を志していることからなのでしょうか,学生の多くが中央大学で真剣に法律学を学びたい,法律系の資格を取得して法律家として社会に貢献したいと希望しました。生徒が希望する通り中央大学通信教育学部を薦めました。もちろん生徒個人には教育を受ける権利,自分の選択する大学で学問を志す自由がありますので,私が産能大学に所属することを強制はできません。
いつの間にか,私が任意に教える子たちの多くは中央大学通信教育学部に所属し,さらにその噂を聞いた生徒の友人などが集まり,個人で教えるには限界を感じるようになりました。そこで,任意団体として人を集め,場所を借り,定款を作り,NPO法人を設立する運びとなりました。有難いことに,私の行っている活動を支援下さる方も多く,皆ほとんど無償でお手伝い下さっております。日本で五本の指に入る法律事務所の所長および所属弁護士・公認会計士・税理士,中央大学法学部教授椎橋隆幸先生,その他大学法学部講師,教育学・心理学専攻の大学院生など多くの方々に支援を頂いております。
以上のような経緯で,私は現在の活動を行っております。
2.NPO法人全国生涯学習支援協会の活動の中心でもある通信制の大学の利点と弱点について
通信制大学の利点は,第一に,しっかりと勉強しなければ絶対に卒業できないことです。卒業率は10パーセント前後といったところでしょう。第二に,在学生のほとんどが公務員や会社員などの社会人であり,年齢層も上は80歳代下は10代後半であることです。通信制大学ならではの利点です。
逆に,通信制大学の弱点は,第一に,独学中心となるので継続が困難であることです。学生の多くが社会人であることから,4年間という在学期間中に出世し仕事が忙しくなり,自然と勉強から足が遠のいてしまう方が結構多いです。第二に,通信制の大学は,ご承知の通り,一定の単位は大学の講義を受けて取得する必要があります。通常は,週末の3日間の集中講座となります。通学部では一年かけて行う講義を3日間に短縮することから,初学者には理解が困難です。大学側の主張としては,スクーリングを受講する前に,教科書を一通り読み,レポート作成したことを前提に授業を進めるので,通学生の半分の時間で理解が可能である,とのことなのでしょうが,ご承知の通り,法律学などの学問を基本書を読んだだけで理解するのは困難を極めます。このような事情で,折角志をもって大学に入学したにもかかわらず,途中で挫折する学生が多い。通信制大学卒業の喜びと,学問を志す喜びを知っている私にとって,このことはとても残念なことです。
以上が,通信制大学の利点と弱点です。
3.通信制大学と更生力
(1)問題の所在(原因)
右の問題とくにフリーター・ニート・ひきこもりの原因は,家庭内での過保護と初等中等教育期間における過保護・放任にあります。日本のいわゆるフリースクールやサポート校の多くは,問題児の通学を強制せず,裏取引により卒業証書だけを出します。また,不登校を改善するサポート校の多くは,校舎内の先生方が苦労なさっているのですが,その苦労は校舎内を社会から隔離し「なんでもありの自由社会」をつくり,とにかく楽しいだけの超過保護教育で,不登校をなくしています(もちろん全てではないですが,ちゃんとしたサポート校は私の知っている範囲では数校しかありません)。私もそのようなサポート校の大学部に勤めていたので中身はよく知っております。
卒業後,その多くはフリーターやニートとなって行きます。
原因は,そのような子どもの親が幼稚園児を扱うような態度で子どもに接していること。逃げ場として入学したサポート校・フリースクールが実社会とはかけ離れた自由社会を形成していることにより,社会化を形成しなければならない一番大切な時期に,自分以外の他人を尊重し,公益の存在と重要性の下に,個人の自由と人権が存在するという,当たり前のことを知らずに社会に解き放たれることにあります。
この悪循環に対し,資源に乏しく,経済成長の限界を向かえたわが国は,重大な危機意識を持たなければならないと確信する。国家的な観点からこの問題を考察すれば,わが国の経済成長も世界各国とのバランスも教育水準の高さがその根底にあるものと解する。今教育問題にメスを入れなければ,日本の未来は暗いものと思われる。
(2)解決策
まず,教育の過保護体制をやめるべきである。正当理由のない結果の平等は,長い目で見ればよい結果は生み出さないものと確信する。勉強していないものに学位を授与する必要性も必然性もない。換言すれば,教育は,「母の優しさ」だけでなく「父の厳しさ」も大切だということです。もちろん,その厳しさの根底には愛がなければなりませんが,厳しさは長い目で見れば人間の成長を促します。我々人類は進化の過程において,幾多もの地球環境の変化に順応し形を変え進化して現在に至っております。我々の遺伝子には「父なる地球」を生き抜く力強さと進化する力を持ち合わせているのです。愛のある厳しさが今の教育には必要であると考えます。
次に,過保護体制と自分勝手な個人主義からは,真の意味での人生の目標(目的)を見つけることはできないものと考えます。これは仏教からの知識ですが,人は自分を必要とされたときに初めて自分の生まれてきた意味を知る,との言葉があります。現在の教育の中心には,個人主義・自由主義・民主主義という基本原理があるのは周知の事実です。わが国憲法上これを基本原理としなければならないことは当然ですが,その実質的な意味を離れて,個人主義・自由主義の言葉だけが独り歩きしている感が否めません。個人の自由,個人の個人だけの思想の自由からは,人生の目標は見つけるのは困難でしょう。これは進路指導を担当してきた経験から言えます。自分が大怪我した時にお世話になった医者を見て医師を志すとか,鑑別所で付添人として真剣に叱ってくれた弁護士を見て法律家を志すなど,私の経験上,しっかりとした目的意識をもって社会人となって巣立っていく教え子は,みな自分以外の人・社会の影響を受けています。若者が,人のために,社会のためにと考えたとき,自分の無力さを知り,大学で学ぶことを決意するのです。ここで大切なことは,学校という枠から離れて実社会を知るということなのです。
以上の,原因と解決策を実現し得る具体的な機関として,私は実績ある通信制の大学の存在を無視することはできないものと考える。
通信制大学には,前述したとおり,厳しさが備わっております。社会人も多く年齢層も広いので,スクーリングを通じて実社会を知ることができます。生徒の親よりもお年を召した方と肩を並べて大学の講義を受講することは,若年層の若者に多大なるよい影響を与えます(私自身がそうでした)。
4.NPO法人全国生涯学習支援協会が果たす社会的役割
通信制大学の弱点である,継続の困難さと,独学ゆえの理解の難しさを克服することが第一点である。通信制大学に理解のある職員と,学識経験および社会経験の豊かな講師による,入門講座の実施があります。ただ,これだけ聴くと他の専門学校や予備校と変わらないものと思われるかもしれません。これらの機関と異なる点は,その中身にあります。ニート・フリーター・非行経験が長い生徒は,まず登校させることに最大の労力を費やさなければなりません。勉強しようと考えている生徒に授業をすることは,誰でもできます。しかし,勉強する気がない,または継続しない,学校に行くのが面倒くさいという学生を登校させて,勉強に興味をもたせるのは大変な苦労と絶対的な知識量が必要になります。持論ですが,教師の職務は,勉強をする目的を理解させ興味を持たせるまでが,その9割であると思います。興味をもった若者は寝ずに勉強するくらいのパワーをもっています。その段階になれば放っておいても学問をマスターし,立派な社会人になって行きます。問題なのは,そこまでの過程である。
NPO法人全国生涯学習支援協会では,前記方策に基づいて,授業は「考えること」を中心にしております。特に法律学という学問は,他人との共存関係と平和をその目的としていることから,法律学に関する事例問題などを「考える」ことで,自分以外の他人・社会・国家の権利・自由・利益というものを,自分に置き換えて考えることになります。この作業を通じて,生徒は実社会を知り社会化を促すことにもなります。
さらに,NPO法人全国生涯支援協会では,公判を傍聴するなど,現場主義(リアリズム)を徹底しています。生徒がこれまでに経験したこと,現在社会で起こっていること,を映像や文章ではなく,目の前の出来事として捉えさせることによって,社会の中の自分という社会人としての自覚の前段階を意識させます。ただ,注意を要することがあります。この社会経験や実習をそのままで終わらせただけでは,単なる思い出にしかなりません。それを社会化→目的意識を持たせて,前記問題を解決する方策までにするには,深い知識と学識経験と実務経験をもった講師が,その経験・実習の意味を生徒自身に考えさせる過程が必要になります。また,右の社会実習は生死について考えさせるほどの現実であればあるほどよい。これについては,これをお読みの方にもお手伝い願いたいところですが,現在私どもが考えている社会実習(当協会ではこれを「社会修習活動」と呼んでいます)は,刑務所見学,少年院見学,末期患者を受け入れている病院でのボランティア,都内某所における浮浪者の実態の視察,公開企業の株主総会出席,など例を挙げれば枚挙にいとまがありません。
また,当協会では資格・公的検定試験の受験にも力を入れます。これも他の予備校と変わらない点ではないかと思われますが,ある一面においては,他の予備校と同じ考えです。というのは,国家資格を取得することで,就職・転職しやすくなるという点です。ただ,フリーター・非行の場合は,この点を強調してもいいと思います。しかし,ニート・ひきこもりの場合は,それ以前の意欲の問題を抱えていますので,この面での理由付けは的外れとなります。私どもの考えている資格・検定試験の受験には,やる気と自信を生徒に持たせることを最大の目的に置いております。宅建や簿記検定3級・ビジネス実務法務検定3級など,他の資格・検定試験と比較して容易に取得できる資格を,チャレンジさせることで,「自分にも何かやれるんだ」という「自信」と「やる気」を持たせることができます。ちなみに,昨年度当協会で簿記検定を生徒に受験させました。7名受験させて全員合格させました。通常の予備校の講義時間の3倍は勉強させました。これは講師の人間性と知識量に影響しますが,何よりも合格することで,資格や合格証書よりも将来の自分に役立つ,前向きな姿勢を得ることができるのです。
請謁ながら,以上述べたことは,別に特別なことではないと,私は考えております。本来,教育・学問とはそのようなものだったのではないでしょうか。
現在社会問題になっているフリーター・ニート・引きこもりの増加は,われわれ教育者の問題であり,現在の教育制度および政治経済体制を築いたわれわれ大人達の責任であると考えます。今後も,東京都とも連携し,不退転の覚悟で,活動して行く所存です。 通信制大学はその解決の一つの糸口になると私は確信しております。
特定非営利活動法人 全国生涯学習支援協会
代表理事 田中謙次
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